【C++】Qt QTreeView の使い方と実践的活用ポイント
QtのQTreeViewは、階層的なデータをツリー形式で表示するウィジェットです。
コード内でQStandardItemModel
を作成し、ルートアイテムに子アイテムを追加してツリー構造を構築します。
アイテムの展開やクリック、右クリックメニューのイベント接続により、直感的な操作が実現できる点が魅力です。
Qt QTreeView の基本理解
QTreeView の役割と特徴
Qt の QTreeView
は、階層的なデータを見やすいツリー形式で表示するためのウィジェットです。
シンプルなリスト表示だけではなく、親子関係や階層構造を持つデータの可視化に適しています。
画面上でアイテムの展開・折りたたみが簡単に行え、ユーザーが情報の全体像を把握しやすい仕組みが備わっています。
また、柔軟にレイアウト変更やアイテムの編集が可能な点から、各種アプリケーションで重宝されています。
モデル・ビューアーキテクチャの基本
Qt のモデル・ビューアーアーキテクチャは、データとその表示方法を分離する考え方を採用しています。
QTreeView
などのビューは、データを直接保持せず、QAbstractItemModel
を継承したモデルから情報を受け取ります。
この分離により、データの変更があった場合も、表示ロジックには影響が少なくなるため、保守性や拡張性が高くなっています。
データソースと UI を独立して管理できるため、大規模なアプリケーションでも扱いやすい設計となっています。
QStandardItemModel を用いたツリー構造実装
QStandardItemModel の初期設定と動作原理
QStandardItemModel
は、Qt のモデルの一つとして用いられる便利なクラスです。
このモデルは、シンプルな階層データを効率的に管理できるよう配慮されており、ツリー状のデータ構造を構築する際に手軽です。
モデル内のアイテムは QStandardItem
により管理され、各アイテムにテキストやアイコン、その他のプロパティを設定することができます。
以下のサンプルコードは、QStandardItemModel
を使って基本のツリー構造を構築する例です。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QStandardItem>
#include <iostream>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
// QTreeView のインスタンスを生成
QTreeView treeView;
// QStandardItemModel を生成し、ヘッダーラベルを設定
QStandardItemModel model;
model.setHorizontalHeaderLabels({"Name"});
// ルートアイテムの取得
QStandardItem *rootItem = model.invisibleRootItem();
// フォルダとファイルアイテムの生成と階層構造の構築
QStandardItem *folderItem = new QStandardItem("Folder");
QStandardItem *fileItem1 = new QStandardItem("File1");
QStandardItem *fileItem2 = new QStandardItem("File2");
folderItem->appendRow(fileItem1);
folderItem->appendRow(fileItem2);
rootItem->appendRow(folderItem);
// モデルをツリービューに設定し表示
treeView.setModel(&model);
treeView.expandAll(); // 全ノードを展開
treeView.show();
std::cout << "TreeView displayed" << std::endl;
return app.exec();
}
TreeView displayed

サンプルコードでは、QTreeView
に QStandardItemModel
を設定し、階層構造のアイテムを追加する様子が確認できます。
簡単な実装でツリー形式の表示が実現でき、必要に応じてプロパティやアイコンなどの追加もスムーズに行えます。
アイテムの追加方法と階層構築
ルートアイテムと子アイテムの関係性
QStandardItemModel
の基本操作の一つとして、ルートアイテムとその子アイテムの関係を構築する方法があります。
ルートアイテムは通常、model.invisibleRootItem()
で取得し、そこに階層構造の最上位を配置する形式が採用されています。
子アイテムは、親アイテムの appendRow()
メソッドを用いて追加することができ、入れ子構造の管理が容易になります。
階層化を行う際は、各アイテムの親子関係に注意しながら構築することで、表示順やレイアウトに影響を与えることなく、綺麗な構造を保つことができます。
アイテムプロパティの設定
各 QStandardItem
は独自のプロパティを持つため、テキストの他にアイコン、チェック状態、編集可能性などを個別に設定できます。
設定例として、アイテムにアイコンやツールチップをつけることが可能です。
以下は、アイテムプロパティを設定するサンプルコードの一部です。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QStandardItem>
#include <QIcon>
#include <iostream>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QTreeView treeView;
QStandardItemModel model;
model.setHorizontalHeaderLabels({"Name"});
QStandardItem *rootItem = model.invisibleRootItem();
// アイコン付きアイテムの作成
QStandardItem *iconItem = new QStandardItem(QIcon(":/icons/folder.png"), "Folder with Icon");
iconItem->setToolTip("This is a folder item with an icon");
rootItem->appendRow(iconItem);
treeView.setModel(&model);
treeView.show();
std::cout << "TreeView with icon item displayed" << std::endl;
return app.exec();
}
TreeView with icon item displayed

サンプルコードから、アイテムごとのプロパティのカスタマイズ方法が理解でき、UI の見た目や操作性を向上させる工夫が施せる点が分かります。
ユーザー操作のイベント処理
クリックイベントのハンドリング
QTreeView
は、ユーザーのクリック操作に対してシグナルを発行します。
これらのシグナルを活用することで、選択されたアイテムに関する情報を取得したり、リアルタイムに処理を行うことが可能です。
例えば、clicked
シグナルを利用して、クリックされたアイテムの内容をコンソールに出力する処理を実装することができます。
イベントハンドリングを加えるだけで、ユーザーインタラクションに応じた柔軟な対応が実現できます。
右クリックメニューの実装
右クリック操作に対してカスタムメニューを表示することで、ユーザーに対する追加の操作を提供できます。
customContextMenuRequested
シグナルを利用して、特定の位置にメニューを表示する仕組みが軽量に構築可能です。
クリックイベントとは異なり、コンテキストに応じたオプションが提供されることで、操作性が向上します。
コンテキストメニューアクションの設定
右クリックメニュー内の各アクションに対して、適切な処理が実行されるように繋げる設定が必要です。
以下は、右クリックメニュー内でシンプルなアクションを設定し、選択時にメッセージを出力するサンプルコードです。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QStandardItem>
#include <QMenu>
#include <QAction>
#include <QDebug>
class MainWindow : public QObject {
Q_OBJECT
public:
MainWindow(QTreeView* treeView) {
this->treeView = treeView;
treeView->setContextMenuPolicy(Qt::CustomContextMenu);
connect(treeView, &QTreeView::customContextMenuRequested, this, &MainWindow::showContextMenu);
}
public slots:
void showContextMenu(const QPoint &pos) {
QMenu contextMenu;
QAction *action1 = new QAction("Action1", &contextMenu);
connect(action1, &QAction::triggered, this, &MainWindow::action1Triggered);
contextMenu.addAction(action1);
// グローバル位置に変換してメニューを表示
contextMenu.exec(treeView->viewport()->mapToGlobal(pos));
}
void action1Triggered() {
qDebug() << "Action1 clicked";
}
private:
QTreeView* treeView;
};
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QTreeView treeView;
QStandardItemModel model;
model.setHorizontalHeaderLabels({"Name"});
// シンプルなアイテムの追加
QStandardItem *rootItem = model.invisibleRootItem();
QStandardItem *item = new QStandardItem("Item");
rootItem->appendRow(item);
treeView.setModel(&model);
treeView.show();
MainWindow mainWindow(&treeView);
return app.exec();
}
#include "main.moc"
Action1 clicked
このサンプルコードは、右クリックした位置にコンテキストメニューを表示し、アクションが選択された際に qDebug()
を利用してメッセージを出力する例です。
基本的な実装方法が理解でき、複雑な動作や複数のアクションも同様の手法で処理することができます。
高度な活用ポイント
ツリーの自動展開と折りたたみ制御
ツリーの自動展開と折りたたみ制御を取り入れると、ユーザーが必要な情報にすぐアクセスできる仕組みを実現できます。
例えば、特定の条件に基づいてノードを自動的に展開することで、直感的なナビゲーションが可能となります。
また、不要な情報を非表示にするための折りたたみ機能も、操作性を向上させる重要な役割を果たしてくれる。
アイテム編集とドラッグ&ドロップ操作
QTreeView
は、ユーザーが直接アイテムを編集したり、ドラッグ&ドロップによる並べ替えができる柔軟な仕組みを備えています。
編集機能やドラッグ&ドロップを実装する際は、各種シグナルやプロパティの設定が必要となります。
編集機能の有効化
各アイテムの編集を有効にするためには、setEditable(true)
の設定を使用します。
これにより、ユーザーがクリックしてテキストを直接変更することができるようになります。
簡単な設定変更だけで、ユーザーがデータを直接操作できるインタフェースを提供可能です。
ドラッグ&ドロップ実装の注意点
ドラッグ&ドロップ操作を取り入れる場合は、ドロップ時のデータ整合性やアイテムの配置順を保つ工夫が求められます。
ドロップ可能な領域やドラッグ時のビジュアルフィードバックの調整など、細やかな対応が必要になります。
設定が複雑になる場合もあるため、サンプルコードやドキュメントを参考にしながら実装を進めるとよいでしょう。
カスタムモデルの実装事例
QAbstractItemModel のカスタマイズ方法
Qt の提供する標準モデルだけでは対応しにくい複雑なデータ構造の場合、QAbstractItemModel
を継承してカスタムモデルを実装する方法が選択肢に入ります。
柔軟な構造で様々なデータを扱えるため、独自のデータソースを用いる場合や、パフォーマンスの最適化を図る際に重宝されます。
必須メソッドのオーバーライド
QAbstractItemModel
を継承した際には、必須メソッド(index()
、parent()
、rowCount()
、columnCount()
、data()
など)をオーバーライドする必要があります。
これらのメソッドは、各インデックスに対応したデータの取得や親子関係の管理を行うための基礎となります。
data() と setData() の実装ポイント
data()
メソッドは、指定されたインデックスに対する表示データを返す役割を担います。
編集可能なアイテムの場合には、setData()
を実装することで、ユーザーが直接データを修正した際の反映が可能になります。
これらは、表示ロジックと編集処理を分離しながら統一したデータ管理を行うための重要なポイントです。
index() と parent() の構築方法
ツリー構造の再現には、index()
と parent()
の実装が鍵となります。
各インデックスがどのデータに対応するかを正確に返すことが、階層構造の正しい表示に直結します。
また、ルートアイテムと子アイテム間の関係性を明示的に管理することで、表示や操作時のバグを回避できます。
パフォーマンス向上のための工夫
大規模なデータを扱う場合、描画やデータ取得のパフォーマンスが重要な課題となります。
例えば、データキャッシュの利用や、不要な再描画の抑制などが効果的です。
アルゴリズム上の改善や、必要最小限のデータ読み込みを行う工夫を取り入れることで、より快適な操作性が実現できます。
以下は、簡単なカスタムモデルの例になります。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QAbstractItemModel>
#include <QVariant>
#include <QString>
#include <vector>
// 階層データを管理する構造体
struct CustomItem {
QString text; // アイテムのテキスト
CustomItem* parent; // 親アイテム
std::vector<CustomItem*> children; // 子アイテムのリスト
};
class CustomModel : public QAbstractItemModel {
public:
CustomModel(QObject *parent = nullptr)
: QAbstractItemModel(parent) {
// ルートアイテムの初期化
root = new CustomItem{"Root", nullptr, {}};
CustomItem* child1 = new CustomItem{"Child1", root, {}};
CustomItem* child2 = new CustomItem{"Child2", root, {}};
root->children.push_back(child1);
root->children.push_back(child2);
}
~CustomModel() override {
// 実際のアプリケーションでは、メモリ解放処理を十分に行う必要がある
}
QModelIndex index(int row, int column, const QModelIndex &parent = QModelIndex()) const override {
if (!hasIndex(row, column, parent))
return QModelIndex();
CustomItem* parentItem;
if (!parent.isValid())
parentItem = root;
else
parentItem = static_cast<CustomItem*>(parent.internalPointer());
if (row < 0 || row >= static_cast<int>(parentItem->children.size()))
return QModelIndex();
CustomItem* childItem = parentItem->children[row];
return createIndex(row, column, childItem);
}
QModelIndex parent(const QModelIndex &child) const override {
if (!child.isValid())
return QModelIndex();
CustomItem* childItem = static_cast<CustomItem*>(child.internalPointer());
CustomItem* parentItem = childItem->parent;
if (parentItem == root)
return QModelIndex();
// 親のインデックスを探す
CustomItem* grandparent = parentItem->parent;
int row = 0;
if (grandparent) {
for (int i = 0; i < static_cast<int>(grandparent->children.size()); ++i) {
if (grandparent->children[i] == parentItem) {
row = i;
break;
}
}
}
return createIndex(row, 0, parentItem);
}
int rowCount(const QModelIndex &parent = QModelIndex()) const override {
CustomItem* parentItem;
if (!parent.isValid())
parentItem = root;
else
parentItem = static_cast<CustomItem*>(parent.internalPointer());
return static_cast<int>(parentItem->children.size());
}
int columnCount(const QModelIndex &parent = QModelIndex()) const override {
Q_UNUSED(parent);
return 1;
}
QVariant data(const QModelIndex &index, int role = Qt::DisplayRole) const override {
if (!index.isValid())
return QVariant();
if (role != Qt::DisplayRole)
return QVariant();
CustomItem* item = static_cast<CustomItem*>(index.internalPointer());
return item->text;
}
private:
CustomItem* root;
};
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QTreeView treeView;
CustomModel model;
treeView.setModel(&model);
treeView.show();
return app.exec();
}
(アプリケーションウィンドウにシンプルなツリービューが表示されます)

このカスタムモデルの例では、極めてシンプルな階層構造を手作業で管理しています。
実際の実装では、メモリ管理やエラーチェック、より複雑なデータの操作を行う必要があるため、参考としてご利用ください。
トラブルシューティングと最適化
表示不具合の原因検証
QTreeView
の表示に関しては、データとビュー間の同期がうまく取れていない場合、想定外の表示となることがあります。
まずは、モデル内のデータが正しく設定されているか、アイテムの追加順序に問題がないか確認することが大切です。
デバッグ用に各メソッドの戻り値やパラメータを逐次確認する手法も有用です。
モデルとビューの同期エラー対策
モデルの変更がビューに正しく反映されない場合、beginResetModel()
や endResetModel()
、もしくは信号 dataChanged()
の発火漏れに注意する必要があります。
これらのメソッドを適切に呼び出すことで、ビューが最新のデータに基づいて更新され、同期エラーの発生を抑えることができます。
また、レイアウト変更に関連するシグナルのタイミングにも注意が必要です。
メモリ管理とパフォーマンス改善
ツリーの構造が複雑になると、メモリ管理やパフォーマンスに影響が出る場合があります。
メモリ解放を適切に行う仕組みや、不要な再描画の発生を防ぐ工夫がポイントとなります。
以下は、レイアウト更新の最適化策の一例です。
レイアウト更新の最適化策
- 必要な部分だけを再描画する方法を採用する
- データ変更時に、全体更新ではなく差分更新を行う
- 大規模データの場合、バックグラウンドでモデル更新を行い、ユーザーインターフェースの応答性を維持する
これらの工夫により、ツリー表示のパフォーマンスを向上させ、スムーズな動作を実現することが期待できます。
まとめ
今回紹介した内容では、QTreeView
の基本的な使い方から、QStandardItemModel
を用いたツリー構造の実装、さらにカスタムモデルによる高度なケースまで、幅広く解説しました。
各セクションで柔軟かつ直感的な操作性を実現するための工夫が随所に見られる仕組みを取り上げたので、今後の実装の参考になれば嬉しいです。