HTTP Upgradeヘッダーの基本と使い方:プロトコル切替実践ガイド
Upgradeヘッダーは、確立されたHTTP接続上で、クライアントがサーバーに対しプロトコルの切替をリクエストするために使用されます。
例えば、HTTP/1.1からHTTP/2.0やWebSocketへ変更する際に、このヘッダーとともに必ず “Connection: upgrade” を送信します。
なお、HTTP/2では利用されません。
HTTP Upgradeヘッダーの定義と役割
定義
HTTP Upgradeヘッダーは、既存のHTTP接続を他のプロトコルに切り替えるための仕組みです。
クライアントがサーバーに対して、接続中の通信プロトコルの変更を依頼する際に使用します。
たとえば、HTTP/1.1の通信をWebSocketや他のバージョンのHTTPに移行する場合に、Upgrade
ヘッダーをリクエストに含めることで、プロトコル変更の意思を伝えることができます。
プロトコル切替リクエストの意義
この仕組みを利用することで、クライアントとサーバーは同一のTCP接続上で別のプロトコルで通信を開始できるため、接続の再確立や新たなコネクションの確立に伴うオーバーヘッドを削減できます。
また、セッションの継続性が保たれるため、通信の遅延を防ぎ、よりシームレスなユーザー体験が実現される利点があります。
リクエストにおいては、Connection: upgrade
と併せてUpgrade
ヘッダーのプロトコル名やバージョンを明示することが必要です。
用途
HTTP Upgradeヘッダーは、さまざまな用途で利用されます。
プロトコル移行の際に求められる基本的な運用例や、サーバーとの連携方法について説明します。
クライアントからの切替要求
クライアント側では、アップグレードの要求を行う際に、以下のヘッダーを含むHTTPリクエストを送信します。
Connection: upgrade
Upgrade: プロトコル名/バージョン
たとえば、HTTP/1.1からWebSocketへの切替を試みる場合、リクエストは下記のようになります:
GET /chat HTTP/1.1
Host: example.com
Connection: upgrade
Upgrade: websocket
このように、クライアントは自身が利用したいプロトコル情報を明示することで、サーバーに対して接続プロトコルの変更を提案します。
サーバー側の応答方針
サーバーは受け取ったアップグレードリクエストに対して、必ずしもプロトコルの切替に応じる必要はありません。
サーバーがアップグレードを承認する場合は、101 Switching Protocols
というステータスコードとともに、再度Upgrade
ヘッダーで切替後のプロトコルを示すレスポンスを返します。
具体的には、以下のような内容になります。
HTTP/1.1 101 Switching Protocols
Upgrade: websocket
Connection: Upgrade
一方、サーバーが要求を無視する場合は、通常のHTTPレスポンス(例:200 OK
)を返し、プロトコル変更が行われなかったことを示します。
プロトコル切替メカニズムの仕組み
HTTP Upgradeヘッダーを利用したプロトコル切替の仕組みは、通信ヘッダー間の連携とリクエスト・レスポンスの流れによって実現されます。
以下で詳細に説明します。
通信ヘッダーの連携
HTTP Upgradeを使用する際、クライアントとサーバーは複数のヘッダーを協調させる必要があります。
特に、Connection
ヘッダーはアップグレードの要求をする上で必須となります。
ConnectionヘッダーとUpgradeヘッダーの関係
Connection
ヘッダーは、どのヘッダーがこの接続に対して特別な意味を持つかを示すために利用されます。
Upgrade
ヘッダーを送信する場合、必ずConnection: upgrade
を含め、サーバー側に対してこのリクエストがプロトコル変更に関するものであることを明確に伝えます。
たとえば、以下のように2つのヘッダーが連携して動作します。
Connection: upgrade
Upgrade: HTTP/2.0
この構成により、サーバーはUpgrade
ヘッダーの内容を正しく認識し、プロトコル変更の手続きを進める準備を整えることができます。
切替プロセスの流れ
プロトコルのアップグレードには、一連のリクエスト送信とそれに対する応答によるプロセスが存在します。
この流れを理解することで、プロトコル変更時の挙動を把握できます。
リクエスト送信と応答の動作
クライアントがアップグレードリクエストを送信すると、サーバーはそのリクエストを解析します。
サーバーは切替要求を受け入れるか、またはそのまま現行のプロトコルで処理するかを判断します。
リクエスト送信時は、上記のようにConnection: upgrade
およびUpgrade
の内容が明示され、どのプロトコルへ切り替えるかが列挙されます。
サーバーがアップグレードに合意する場合、レスポンスとして101 Switching Protocols
のステータスコードと共に、新しいプロトコルの名称を記載したUpgrade
ヘッダーが返されます。
これにより、クライアントとサーバーは同一の接続上で新しいプロトコルに切り替えた状態で通信を継続できます。
101 Switching Protocolsレスポンスの意味
101 Switching Protocols
というステータスコードは、サーバーがアップグレードリクエストを受け入れ、リクエストされたプロトコルに切り替えることを意味します。
このレスポンスが返されると、従来のHTTPの処理は終了し、新しいプロトコルに基づく通信へと移行します。
レスポンス例を下記に示します。
HTTP/1.1 101 Switching Protocols
Upgrade: websocket
Connection: Upgrade
この例では、クライアントがリクエストしたwebsocket
プロトコルに切り替えることが確認できるため、以降の通信はWebSocketプロトコルに従って行われることになります。
実装例と設定方法
HTTP Upgradeヘッダーを使用したプロトコル切替の実装例を、クライアント側とサーバー側でそれぞれ説明します。
実際のコード例を交えて具体的な設定方法を紹介します。
クライアント側の実装例
クライアントがアップグレードリクエストを送信する際の構成は、HTTPヘッダーの記述方法に依存します。
ここでは、一般的なHTTPリクエストでのアップグレードの記述例を示します。
HTTPリクエストでのアップグレード記述例
たとえば、HTTP/1.1からWebSocketへの切替要求を送信する場合、以下のようなリクエストを生成します。
GET /livechat HTTP/1.1
Host: www.example.com
Connection: upgrade
Upgrade: websocket
Sec-WebSocket-Key: x3JJHMbDL1EzLkh9GBhXDw==
Sec-WebSocket-Version: 13
このリクエスト例では、Sec-WebSocket-Key
やSec-WebSocket-Version
といったWebSocket特有のヘッダーも併せて含めることで、サーバー側が正しくWebSocket接続の確立手続きを行えるようになっています。
クライアントでは、HTTPライブラリやフレームワークを用いる場合が多いため、これらのヘッダー情報が正しく付加されるよう設定する必要があります。
サーバー側の実装例
サーバー側の実装では、アップグレードリクエストを検出し、条件に合わせた応答を返す設定が求められます。
HTTPサーバーの設定ファイルやプログラム内で、アップグレードに対する判断処理を組み込むケースが考えられます。
応答設定と実装上の注意点
サーバーがアップグレードリクエストに応じる場合、以下の点に注意する必要があります。
- アップグレードリクエストと連携して、
Connection: upgrade
ヘッダーの検証を行うこと。 - プロトコル切替が可能な状態か、サーバーの実装環境でサポートされているプロトコルかを確認すること。
- 承認された場合は、必ず
101 Switching Protocols
のステータスコードと、新しいプロトコル名を含むUpgrade
ヘッダーをセットすること。
実装例として、Node.jsでWebSocketへのアップグレードを処理する場合は、下記のようなコードが参考になります。
const http = require('http');
const WebSocket = require('ws');
const server = http.createServer();
server.on('upgrade', (req, socket, head) => {
// WebSocketのハンドシェイク処理を実施
if (req.headers.upgrade === 'websocket') {
// WebSocketサーバーに接続を渡す
wss.handleUpgrade(req, socket, head, (ws) => {
wss.emit('connection', ws, req);
});
} else {
socket.end();
}
});
const wss = new WebSocket.Server({ noServer: true });
server.listen(8080);
このサンプルコードでは、HTTPサーバーがupgrade
イベントをリッスンし、アップグレード要求に対してWebSocket接続のハンドシェイクを行っています。
サーバー側で適切な条件チェックを行い、処理を分岐している点に注意してください。
制約事項と注意点
HTTP Upgradeヘッダーを利用する際の注意点として、HTTPのバージョンごとの対応状況や、サーバーがリクエストを無視した場合の挙動などが挙げられます。
以下で各ポイントについて詳しく解説します。
HTTPバージョン別の対応状況
HTTPの各バージョンでは、アップグレードに対する対応が異なる場合があります。
そのため、利用環境に応じた制約事項を把握しておく必要があります。
HTTP/1.1とHTTP/2の違い
Upgrade
ヘッダーは、基本的にHTTP/1.1の環境下で定義されている機能であり、HTTP/2ではこの仕組みが採用されていません。
HTTP/2の接続確立は異なる仕組みにより行われるため、プロトコルのアップグレードはHTTP/1.1でのみ有効な手法となります。
したがって、HTTP/2環境ではアップグレードリクエストを送信しても、無視されるか別途エラーが発生する可能性があります。
WebSocketへの切替時の制約
WebSocketへのプロトコル切替に際しては、特殊なヘッダー情報やセキュリティ上の考慮が必要です。
WebSocketはUpgrade: websocket
で指定されるため、クライアント側のリクエストにおいてプロトコル固有のヘッダー(例:Sec-WebSocket-Key
、Sec-WebSocket-Version
)が必須となります。
また、プロキシや負荷分散装置がアップグレードリクエストを正しく処理できない場合、接続が切断される可能性があるため、インフラ環境の確認が必要です。
サーバー無視時の挙動
サーバーがクライアントのアップグレード要求を無視または拒否する場合、クライアントが送信したリクエストに対して標準のHTTPレスポンスが返されます。
この場合の挙動について詳述します。
通常のHTTP応答との違い
サーバーがプロトコル切替に応じない場合、以下の点に注意する必要があります。
- クライアント側では、アップグレード要求に対するレスポンスが
200 OK
などの通常のHTTP応答となった場合、そのセッションは従来のプロトコルで通信が行われることを前提に処理が続行されます。 - 明示的にプロトコル切替を要求したにもかかわらずサーバーが無視した場合、クライアント側は新たな接続を試みるか、エラーハンドリングの処理を実装する必要があります。
このように、HTTP Upgradeヘッダーを利用した接続変更は、サーバーとクライアントの双方で条件を満たす場合にのみ成立するため、サーバーの動作仕様や環境設定に応じた検証が求められます。
まとめ
HTTP Upgradeヘッダーの基本、プロトコル切替リクエストの意義、クライアントとサーバーの役割、通信ヘッダーの連携、切替プロセスの流れ、実装例と設定方法、さらにHTTPバージョン間の制約やサーバー無視時の挙動について解説しています。
これにより、利用時の注意点と実装上の具体的な対応が理解できます。