クラス

【C#】構造体をListで効率管理するベストプラクティスと性能比較

C#ではstructList<T>に格納でき、軽量な値型を大量に扱う際にヒープ割当を避けつつ動的配列の利便性を得られます。

ただし追加時に値全体がコピーされるため、要素を後から変更したい場合はlist[i] = 新値の置換が必要です。

サイズが大きい構造体や頻繁な書き換えはパフォーマンス低下やボックス化を招くので、読み取り中心かつ小規模データで使うと扱いやすいです。

目次から探す
  1. 構造体とListの基本
  2. 構造体をListに格納するメリット
  3. 注意点と落とし穴
  4. パフォーマンス比較
  5. 最適化テクニック
  6. 型設計のベストプラクティス
  7. 実践ユースケース
  8. C#バージョン別の強化ポイント
  9. テストとプロファイリング
  10. デバッグとトラブルシューティング
  11. 応用パターン
  12. まとめ

構造体とListの基本

C#で効率的にデータを管理する際、構造体structとジェネリックコレクションのList<T>はよく組み合わせて使われます。

ここでは、まず構造体とList<T>の基本的な特徴について詳しく解説いたします。

構造体の特徴

構造体はC#における値型の一種で、軽量なデータのグループ化に適しています。

クラスと似ていますが、いくつかの重要な違いがあります。

値型と参照型の違い

C#の型は大きく分けて「値型」と「参照型」に分類されます。

構造体は値型に該当し、クラスは参照型です。

  • 値型(構造体)

値型は変数に直接データを保持します。

変数を別の変数に代入すると、データのコピーが作成されます。

つまり、2つの変数は独立した別のデータを持つことになります。

例として、Point構造体を考えた場合、Point p1 = new Point(1, 2);とし、Point p2 = p1;と代入すると、p2p1のコピーであり、p2の値を変更してもp1には影響しません。

  • 参照型(クラス)

参照型は変数にデータの参照(アドレス)を保持します。

変数を別の変数に代入すると、同じオブジェクトを指す参照がコピーされるだけです。

したがって、どちらかの変数を通じてオブジェクトの状態を変更すると、もう一方の変数からも変更が見えます。

この違いは、メモリ管理やパフォーマンスに大きな影響を与えます。

値型はコピーが発生するため、大きな構造体を頻繁にコピーするとコストが高くなりますが、小さくて頻繁に生成・破棄されるデータには適しています。

スタック割り当てとヒープ割り当て

値型の構造体は通常、スタック領域に割り当てられます。

スタックは高速なメモリ領域で、関数の呼び出しごとに自動的に管理されます。

構造体のインスタンスは、ローカル変数として宣言された場合やメソッドの引数として渡された場合にスタックに配置されることが多いです。

一方、参照型のクラスはヒープ領域に割り当てられます。

ヒープは動的にメモリを確保する領域で、ガベージコレクションによって不要になったオブジェクトが回収されます。

ヒープ割り当てはスタックよりも遅く、ガベージコレクションの負荷も発生します。

ただし、構造体がボックス化(object型やインターフェース型にキャストされる場合)されると、ヒープに割り当てられることがあります。

また、構造体がクラスのフィールドとして使われる場合は、そのクラスのヒープ上に配置されます。

このように、構造体は小さくて短命なデータを効率的に扱うのに適しており、ヒープ割り当てのオーバーヘッドを避けられるのが大きなメリットです。

List<T>の特徴

List<T>はC#の標準ライブラリで提供されているジェネリックな可変長配列です。

配列のように連続したメモリ領域を使いながら、要素の追加や削除が簡単に行えます。

内部容量の自動拡張

List<T>は内部に配列を持っており、その配列のサイズを「容量」と呼びます。

初期状態では容量は小さく設定されていますが、要素を追加して容量を超えると、自動的に容量が拡張されます。

容量の拡張は、通常は現在の容量の約2倍のサイズの新しい配列を確保し、既存の要素をコピーしてから新しい要素を追加します。

このため、容量を超えるたびにコピー処理が発生し、パフォーマンスに影響を与えることがあります。

容量の拡張は頻繁に起こるとコストが高いため、あらかじめList<T>のコンストラクタで容量を指定したり、Capacityプロパティを設定しておくと効率的です。

添字アクセスとイテレーションのコスト

List<T>は内部的に配列を使っているため、添字(インデックス)によるアクセスは高速で、O(1)の時間で要素にアクセスできます。

これは配列の利点をそのまま活かしています。

一方、foreachなどのイテレーションも高速に行えますが、構造体を要素とする場合は注意が必要です。

foreachで値型の要素を列挙すると、要素がコピーされるため、構造体のサイズが大きいとパフォーマンスに影響が出ることがあります。

また、List<T>Enumeratorは構造体であるため、foreachのループ内でのコピー回数を減らすためにin修飾子を使ったり、forループで添字アクセスを使う方法も検討すると良いでしょう。

以上のように、構造体は値型でスタックに割り当てられるため軽量で高速ですが、コピーコストに注意が必要です。

List<T>は動的にサイズを変えられる配列で、添字アクセスが高速ですが、容量拡張時のコピーコストが発生します。

これらの特徴を理解した上で、構造体とList<T>を組み合わせることで効率的なデータ管理が可能になります。

以下に、簡単なサンプルコードを示します。

Point構造体をList<Point>に格納し、要素を追加・表示しています。

using System;
using System.Collections.Generic;
public struct Point
{
    public double X;
    public double Y;
    public Point(double x, double y)
    {
        X = x;
        Y = y;
    }
}
class Program
{
    static void Main()
    {
        // Point型のListを作成
        List<Point> points = new List<Point>();
        // Listに構造体のインスタンスを追加
        points.Add(new Point(1.0, 2.0));
        points.Add(new Point(3.0, 4.0));
        points.Add(new Point(5.0, 6.0));
        // Listの内容を表示
        foreach (var point in points)
        {
            Console.WriteLine($"X: {point.X}, Y: {point.Y}");
        }
    }
}
X: 1, Y: 2
X: 3, Y: 4
X: 5, Y: 6

このコードでは、Point構造体のインスタンスをList<Point>に追加し、foreachで順に表示しています。

構造体は値型なので、Listに追加される際にコピーされますが、Listの内部で効率的に管理されます。

構造体をListに格納するメリット

メモリ効率の向上

構造体は値型であり、List<T>に格納するときに連続したメモリ領域に直接データが格納されます。

これにより、メモリの断片化が少なくなり、効率的にメモリを利用できます。

例えば、クラスのインスタンスをList<T>に格納すると、リスト内部にはオブジェクトへの参照(ポインタ)が格納され、実際のオブジェクトはヒープ上に分散して配置されます。

この場合、メモリの断片化が起こりやすく、アクセス時にキャッシュミスが増える可能性があります。

一方、構造体は値型なので、List<T>の内部配列に直接データが詰め込まれます。

これにより、メモリの連続性が保たれ、無駄な参照のオーバーヘッドもありません。

結果として、メモリ使用量が抑えられ、効率的なデータ管理が可能になります。

キャッシュ局所性による高速化

CPUのキャッシュは連続したメモリ領域にアクセスする際に最も効果を発揮します。

構造体をList<T>に格納すると、データが連続した配列としてメモリに配置されるため、キャッシュヒット率が高まります。

これにより、ループ処理や大量のデータアクセス時に高速化が期待できます。

特に数値計算や物理シミュレーション、ゲーム開発などで大量の小さなデータを扱う場合、キャッシュ局所性の向上はパフォーマンスに大きく寄与します。

逆に、クラスのインスタンスを格納した場合は、リスト内の参照をたどってヒープ上のオブジェクトにアクセスするため、キャッシュミスが増えやすくなります。

これがパフォーマンス低下の原因となることがあります。

ガベージコレクションの負荷軽減

構造体は値型であり、ヒープ上にオブジェクトを生成しないため、ガベージコレクション(GC)の対象になりません。

List<T>に構造体を格納すると、GCの負荷を大幅に軽減できます。

クラスのインスタンスを大量に生成してList<T>に格納すると、ヒープ上に多くのオブジェクトが存在し、GCが頻繁に発生する可能性があります。

GCはアプリケーションのパフォーマンスに影響を与えるため、特にリアルタイム性が求められる環境では問題となります。

構造体を使うことで、GCの発生回数や時間を減らし、安定したパフォーマンスを維持しやすくなります。

これが、ゲームや高頻度のデータ更新が必要なアプリケーションで構造体とList<T>の組み合わせが好まれる理由の一つです。

注意点と落とし穴

追加時に発生するコピー

構造体は値型であるため、List<T>に要素を追加するときに必ずコピーが発生します。

これは、構造体のインスタンスがListの内部配列に直接格納されるためです。

コピーは小さい構造体であればほとんど問題になりませんが、大きな構造体や頻繁な追加操作がある場合はパフォーマンスに影響を与えることがあります。

値型再代入のパターン別挙動

構造体をList<T>から取り出して変更し、再度リストに戻す場合の挙動には注意が必要です。

以下のようなパターンがあります。

  1. 直接インデックスでアクセスして再代入する場合
List<Point> points = new List<Point> { new Point(1, 2) };
Point p = points[0];
p.X = 10;  // これはコピーのpを変更しているだけ
points[0] = p;  // 変更をリストに反映させるには再代入が必要

この場合、points[0]から取得したpはコピーなので、p.Xを変更してもリスト内の要素は変わりません。

変更を反映させるには、再度points[0] = p;のように代入し直す必要があります。

  1. foreachで取り出して変更する場合
foreach (var point in points)
{
    point.X = 10;  // コンパイルエラー:foreachの変数は読み取り専用
}

foreachのループ変数は読み取り専用であり、構造体のフィールドを変更できません。

変更したい場合はforループを使い、インデックスでアクセスして再代入する必要があります。

  1. refを使った参照渡し

C# 7.0以降では、refを使ってリスト内の構造体を参照渡しし、直接変更することも可能です。

ref Point pRef = ref points[0];
pRef.X = 10;  // 直接リスト内の要素を変更

この方法はコピーを避けて効率的に変更できますが、refの扱いには注意が必要です。

大きい構造体によるパフォーマンス低下

構造体は値型であるため、コピーが発生します。

構造体のサイズが大きくなると、コピーコストが増大し、パフォーマンスが低下します。

特にList<T>に追加したり、要素を取り出して操作する際に影響が顕著です。

一般的に、構造体のサイズは16バイト以下に抑えることが推奨されています。

大きなデータを扱う場合はクラスを使うか、構造体を分割して小さくすることを検討してください。

ボックス化が発生するケース

構造体は値型ですが、特定の状況でボックス化(Boxing)が発生し、ヒープにオブジェクトとしてコピーされます。

ボックス化はパフォーマンス低下の原因となるため注意が必要です。

インターフェース経由の呼び出し

構造体がインターフェースを実装している場合、インターフェース型の変数に代入するとボックス化が発生します。

public interface IPrintable
{
    void Print();
}
public struct Point : IPrintable
{
    public int X, Y;
    public void Print() => Console.WriteLine($"X: {X}, Y: {Y}");
}
Point p = new Point { X = 1, Y = 2 };
IPrintable printable = p;  // ここでボックス化が発生
printable.Print();

この例では、IPrintable型の変数に構造体を代入すると、構造体がヒープ上にボックス化されます。

頻繁に行うとパフォーマンスに悪影響を及ぼします。

object型へのアップキャスト

構造体をobject型に代入するとボックス化が発生します。

Point p = new Point { X = 1, Y = 2 };
object obj = p;  // ボックス化が発生

ボックス化を避けるためには、インターフェースやobject型へのキャストを極力控え、構造体のまま扱うことが重要です。

スレッドセーフではない操作

List<T>自体はスレッドセーフではありません。

複数のスレッドから同時に読み書きすると、競合状態やデータ破壊が発生する可能性があります。

構造体を格納している場合も同様です。

競合状態とデータ破壊

複数スレッドが同時にList<T>の要素を追加・削除・更新すると、内部状態が不整合になり、例外が発生したり、データが破損したりします。

特に構造体は値型でコピーが多いため、スレッド間での同期が不十分だと、意図しない古い値を読み取ったり、更新が失われることがあります。

スレッドセーフにするには、lock文やConcurrentコレクションの利用、またはスレッドごとに独立したコレクションを持つなどの対策が必要です。

構造体の特性を理解した上で、適切な同期機構を設計してください。

パフォーマンス比較

構造体List vs クラスList

メモリ消費量の差異

構造体を格納したList<T>とクラスを格納したList<T>では、メモリ消費量に大きな違いがあります。

構造体は値型であり、List<T>の内部配列に直接データが連続して格納されます。

一方、クラスは参照型で、List<T>にはオブジェクトへの参照(ポインタ)が格納され、実際のオブジェクトはヒープ上に分散して配置されます。

このため、クラスのList<T>は以下のようなメモリ構造になります。

  • List<T>の内部配列に参照(8バイト程度)が連続して格納される
  • 各オブジェクトはヒープ上に個別に存在し、オブジェクトヘッダーやメモリ断片化の影響を受ける

一方、構造体のList<T>は、構造体のサイズ×要素数分の連続したメモリ領域のみを使用します。

オーバーヘッドが少なく、メモリ効率が高いです。

例えば、100万個のPoint(2つのdoubleフィールド、計16バイト)を格納する場合、

項目構造体Listのメモリ使用量クラスListのメモリ使用量(概算)
データ本体16MB (16バイト×1,000,000)8MB (参照8バイト×1,000,000) + 16MB (オブジェクト本体) + ヘッダー等
ヒープ断片化・オーバーヘッドほぼなしあり(オブジェクトヘッダー、断片化)

このように、構造体のList<T>はメモリ使用量が少なく、ヒープ断片化の影響も受けにくいです。

反復処理速度の検証

反復処理においても構造体のList<T>は有利な場合が多いです。

連続したメモリ領域にデータが格納されているため、CPUキャッシュの局所性が高く、アクセスが高速になります。

一方、クラスのList<T>は参照をたどってヒープ上のオブジェクトにアクセスするため、キャッシュミスが増えやすく、反復処理が遅くなることがあります。

ただし、構造体のサイズが大きい場合はコピーコストが増えるため、反復処理のパフォーマンスが低下することもあります。

小さな構造体であれば、forループやforeachでの反復処理が高速に行えます。

構造体List vs 配列

リサイズ頻度とコピー時間

List<T>は内部で配列を使っていますが、要素数が容量を超えると自動的に容量を拡張し、新しい配列に既存の要素をコピーします。

このリサイズ処理はコストが高く、頻繁に発生するとパフォーマンスに悪影響を与えます。

一方、固定長の配列はリサイズが不要で、要素の追加やアクセスが高速です。

ただし、サイズ変更ができないため、要素数が変動する場合は使いにくいです。

構造体のList<T>でも同様にリサイズ時に構造体のコピーが発生します。

構造体が大きいとコピーコストが高くなるため、あらかじめ容量を指定してリサイズ回数を減らすことが重要です。

Span<T>利用時の効果

C#のSpan<T>は、連続したメモリ領域を安全かつ効率的に扱うための構造体です。

Span<T>を使うと、配列やList<T>の内部配列の一部を参照し、コピーなしで高速にアクセスできます。

構造体のList<T>と組み合わせると、Span<T>を使って内部配列のスライスを取得し、効率的にデータを処理できます。

これにより、コピーを減らしつつ高速なアクセスが可能になります。

例えば、List<T>AsSpan()メソッド(.NET 5以降)を使うと、内部配列のSpan<T>を取得できます。

List<Point> points = new List<Point> { new Point(1, 2), new Point(3, 4) };
Span<Point> span = CollectionsMarshal.AsSpan(points);  // System.Runtime.InteropServices名前空間
for (int i = 0; i < span.Length; i++)
{
    // 直接Span経由でアクセスし、コピーを減らす
    span[i].X += 1;
}

このように、Span<T>を活用すると、構造体のコピーを最小限に抑えつつ高速な処理が可能です。

ただし、Span<T>はスタック上の構造体であり、非同期処理やヒープに保存することはできないため、用途に応じて使い分けが必要です。

最適化テクニック

フィールド配置とアライメント

構造体のパフォーマンスを最大化するためには、フィールドの配置とメモリアライメントを意識することが重要です。

CPUはメモリを一定の境界(アライメント)で読み書きするため、フィールドが適切に配置されていないと余分なパディングが入り、メモリ使用量が増えたりアクセス速度が低下したりします。

例えば、int(4バイト)とbyte(1バイト)が混在する場合、byteの後に3バイトのパディングが入ることがあります。

これを避けるために、サイズの大きいフィールドから順に並べると効率的です。

public struct Example
{
    public long LargeField;  // 8バイト
    public int MediumField;  // 4バイト
    public byte SmallField;  // 1バイト
    // パディングが最小限に抑えられる
}

また、[StructLayout(LayoutKind.Sequential, Pack = 1)]属性を使うことでパディングを制御できますが、パフォーマンスに悪影響を与える場合もあるため注意が必要です。

イミュータブル設計の採用

構造体は値型でコピーが頻繁に発生するため、イミュータブル(不変)設計を採用すると安全かつ効率的です。

イミュータブルな構造体は状態変更ができないため、コピー時の副作用を防ぎ、バグの発生を抑えられます。

イミュータブル構造体の例:

public readonly struct Point
{
    public double X { get; }
    public double Y { get; }
    public Point(double x, double y)
    {
        X = x;
        Y = y;
    }
    public Point Move(double dx, double dy) => new Point(X + dx, Y + dy);
}

readonly修飾子を付けることで、フィールドの変更をコンパイラが禁止し、意図しない変更を防止します。

イミュータブル設計はスレッドセーフ性の向上にも寄与します。

in/ref/out パラメータの活用

構造体をメソッドの引数として渡す際、inrefoutキーワードを使うことでコピーを減らし、パフォーマンスを向上させられます。

  • inパラメータは読み取り専用の参照渡しで、コピーを避けつつ安全に値を渡せます
public void ProcessPoint(in Point p)
{
    Console.WriteLine($"X: {p.X}, Y: {p.Y}");
}
  • refパラメータは読み書き可能な参照渡しで、メソッド内で値を変更できます
public void MovePoint(ref Point p, double dx, double dy)
{
    p = new Point(p.X + dx, p.Y + dy);
}
  • outパラメータは初期化されていない変数に値を設定するために使います

これらを適切に使い分けることで、構造体のコピーコストを抑えつつ柔軟な操作が可能です。

Unsafeコードと固定バッファ

パフォーマンスを極限まで追求する場合、unsafeコードを使ってポインタ操作や固定バッファを利用する方法があります。

これにより、メモリの直接操作が可能となり、コピーや境界チェックのオーバーヘッドを削減できます。

public unsafe struct FixedBufferExample
{
    public fixed int Values[10];  // 固定長の配列を構造体内に直接格納
}

fixedキーワードを使うと、構造体内に固定長の配列を埋め込めます。

これにより、ヒープ割り当てを避けて連続したメモリ領域を確保できます。

ただし、unsafeコードは安全性が低下し、メモリ破壊やセキュリティリスクが増すため、使用は慎重に行い、必要な場合に限定してください。

ArrayPool・MemoryPoolの併用

大量の構造体を頻繁に生成・破棄する場合、ArrayPool<T>MemoryPool<T>を活用するとメモリ割り当てのオーバーヘッドを減らせます。

これらは配列やメモリの再利用を促進し、GC負荷を軽減します。

using System.Buffers;
var pool = ArrayPool<Point>.Shared;
Point[] buffer = pool.Rent(1000);
try
{
    // bufferを使って処理
}
finally
{
    pool.Return(buffer);
}

ArrayPool<T>は配列の再利用を管理し、頻繁な配列の確保と解放を避けます。

MemoryPool<T>Memory<T>Span<T>と組み合わせて使うことが多く、より柔軟なメモリ管理が可能です。

これらを使うことで、構造体のList<T>や配列のパフォーマンスを向上させつつ、GCの影響を抑えられます。

特にリアルタイム処理や高頻度のデータ更新が必要な場面で効果的です。

型設計のベストプラクティス

サイズを意識したフィールド選定

構造体は値型であり、コピーが頻繁に発生するため、サイズが大きくなるとパフォーマンスに悪影響を及ぼします。

一般的に、構造体のサイズは16バイト以下に抑えることが推奨されています。

これを超えると、コピーコストが増大し、メモリ使用量も増えるためです。

フィールドを選定する際は、以下のポイントを意識してください。

  • 必要最低限のフィールドに絞る

不要なデータを含めるとサイズが大きくなり、コピーコストが増えます。

必要な情報だけを持たせることが重要です。

  • 小さいデータ型を優先する

例えば、intよりshortbyteで十分な場合は小さい型を使うとサイズ削減につながります。

ただし、パディングやアライメントの影響も考慮してください。

  • 参照型フィールドは避ける

構造体内に参照型フィールドを持つと、ボックス化やヒープ割り当てのリスクが増えます。

可能な限り値型フィールドのみで設計しましょう。

  • フィールドの順序を工夫する

サイズの大きいフィールドから順に並べることで、パディングを減らしメモリ効率を高められます。

EqualsとGetHashCodeの実装指針

構造体は値の等価性を比較するためにEqualsGetHashCodeを適切に実装することが重要です。

デフォルトの実装はフィールドごとの比較を行いますが、パフォーマンスや意味的な等価性を考慮してカスタマイズすることが多いです。

  • Equalsの実装

全ての重要なフィールドを比較し、値が等しいか判定します。

object型の引数を受けるオーバーライドと、同じ型を受ける型特化版(IEquatable<T>の実装)を用意すると効率的です。

public struct Point : IEquatable<Point>
{
    public int X;
    public int Y;
    public override bool Equals(object obj) => obj is Point other && Equals(other);
    public bool Equals(Point other) => X == other.X && Y == other.Y;
    public override int GetHashCode() => HashCode.Combine(X, Y);
}
  • GetHashCodeの実装

フィールドの値を組み合わせて一意性の高いハッシュコードを生成します。

HashCode.Combine(.NET Core以降)を使うと簡潔に書けます。

  • イミュータブル設計との相性

イミュータブル構造体はEqualsGetHashCodeの信頼性が高く、コレクションのキーとして使いやすいです。

IComparableとカスタムソート

構造体をソート可能にするには、IComparable<T>インターフェースを実装します。

これにより、List<T>.Sort()Array.Sort()でカスタムの順序付けが可能になります。

public struct Point : IComparable<Point>
{
    public int X;
    public int Y;
    public int CompareTo(Point other)
    {
        int result = X.CompareTo(other.X);
        if (result != 0) return result;
        return Y.CompareTo(other.Y);
    }
}

この例では、まずX座標で比較し、同じ場合はY座標で比較しています。

複数のフィールドを組み合わせて順序を決めることが多いです。

カスタムソートを使う場合は、Comparison<T>デリゲートやIComparer<T>を利用して柔軟にソート条件を変えられます。

record struct導入時の注意点

C# 9.0以降で導入されたrecord structは、イミュータブルな値型を簡単に定義できる便利な機能です。

自動的にEqualsGetHashCodeToStringが生成され、値の比較やデバッグが容易になります。

ただし、record structを使う際には以下の点に注意してください。

  • イミュータブル設計が前提

record structは基本的にイミュータブルで設計されているため、ミュータブルなフィールドを持つと意図しない動作になることがあります。

  • パフォーマンスの影響

自動生成されるメソッドは便利ですが、複雑なフィールドを持つ場合はパフォーマンスに影響が出ることがあります。

必要に応じてカスタム実装を検討してください。

  • 互換性の問題

古いC#バージョンや.NET Frameworkでは利用できないため、プロジェクトの環境に注意が必要です。

  • ボックス化のリスク

record structも値型なのでボックス化のリスクは変わりません。

インターフェース実装時のボックス化に注意してください。

以上のポイントを踏まえ、record structはイミュータブルで比較的シンプルな値型に適しており、適切に使うことでコードの可読性と安全性を高められます。

実践ユースケース

物理シミュレーションの粒子管理

物理シミュレーションでは、多数の粒子の位置や速度、加速度などの状態を高速に管理・更新する必要があります。

構造体を使って粒子の状態を表現し、List<T>で管理することで、メモリ効率と処理速度の両方を向上させられます。

public struct Particle
{
    public double PositionX;
    public double PositionY;
    public double VelocityX;
    public double VelocityY;
    public Particle(double px, double py, double vx, double vy)
    {
        PositionX = px;
        PositionY = py;
        VelocityX = vx;
        VelocityY = vy;
    }
    public void Update(double deltaTime)
    {
        PositionX += VelocityX * deltaTime;
        PositionY += VelocityY * deltaTime;
    }
}
class Program
{
    static void Main()
    {
        var particles = new List<Particle>();
        // 粒子を追加
        particles.Add(new Particle(0, 0, 1, 1));
        particles.Add(new Particle(10, 10, -1, 0));
        double deltaTime = 0.016; // 60FPS相当の時間
        // 粒子の状態を更新
        for (int i = 0; i < particles.Count; i++)
        {
            Particle p = particles[i];
            p.Update(deltaTime);
            particles[i] = p;  // 変更を反映
        }
        // 状態を表示
        foreach (var p in particles)
        {
            Console.WriteLine($"Position: ({p.PositionX}, {p.PositionY})");
        }
    }
}
Position: (0.016, 0.016)
Position: (9.984, 10)

この例では、構造体ParticleList<Particle>で管理し、各粒子の位置を更新しています。

構造体のコピーコストは小さく、連続したメモリ配置によりキャッシュ効率も良いため、大量の粒子を高速に処理できます。

ゲーム開発での座標リスト

ゲーム開発では、キャラクターやオブジェクトの座標を大量に管理することが多いです。

PointVector2のような構造体をList<T>で保持することで、描画や物理演算のパフォーマンスを向上させられます。

public struct Vector2
{
    public float X;
    public float Y;
    public Vector2(float x, float y)
    {
        X = x;
        Y = y;
    }
    public float DistanceTo(Vector2 other)
    {
        float dx = X - other.X;
        float dy = Y - other.Y;
        return MathF.Sqrt(dx * dx + dy * dy);
    }
}
class Program
{
    static void Main()
    {
        var positions = new List<Vector2>
        {
            new Vector2(0, 0),
            new Vector2(3, 4),
            new Vector2(6, 8)
        };
        Vector2 playerPos = new Vector2(1, 1);
        foreach (var pos in positions)
        {
            Console.WriteLine($"Distance to player: {pos.DistanceTo(playerPos)}");
        }
    }
}
Distance to player: 1.4142135
Distance to player: 3.6055512
Distance to player: 8.485281

構造体のVector2を使うことで、座標データの管理がシンプルかつ高速になります。

List<T>の連続メモリ配置により、ループ処理も効率的です。

大量ログ行の一時保持

大量のログ行を一時的に保持し、後でまとめて処理する場合にも構造体とList<T>の組み合わせが有効です。

ログの各行を構造体で表現し、必要な情報だけを持たせることでメモリ使用量を抑えられます。

public struct LogEntry
{
    public DateTime Timestamp;
    public int Level;
    public int EventId;
    public LogEntry(DateTime timestamp, int level, int eventId)
    {
        Timestamp = timestamp;
        Level = level;
        EventId = eventId;
    }
}
class Program
{
    static void Main()
    {
        var logs = new List<LogEntry>();
        logs.Add(new LogEntry(DateTime.Now, 1, 100));
        logs.Add(new LogEntry(DateTime.Now.AddSeconds(1), 2, 101));
        foreach (var log in logs)
        {
            Console.WriteLine($"[{log.Timestamp}] Level: {log.Level}, EventId: {log.EventId}");
        }
    }
}
[2024/06/01 12:00:00] Level: 1, EventId: 100
[2024/06/01 12:00:01] Level: 2, EventId: 101

構造体でログ行を表現することで、GC負荷を抑えつつ大量のログを効率的に管理できます。

必要に応じてArrayPool<T>などと組み合わせるとさらに効果的です。

数値計算ライブラリの内部バッファ

数値計算や信号処理のライブラリでは、大量の数値データを高速に処理するために構造体の配列やList<T>を内部バッファとして使うことがあります。

構造体で複数の値をまとめて表現し、連続したメモリ領域で高速アクセスを実現します。

public struct ComplexNumber
{
    public double Real;
    public double Imaginary;
    public ComplexNumber(double real, double imaginary)
    {
        Real = real;
        Imaginary = imaginary;
    }
    public ComplexNumber Add(ComplexNumber other)
    {
        return new ComplexNumber(Real + other.Real, Imaginary + other.Imaginary);
    }
}
class Program
{
    static void Main()
    {
        var buffer = new List<ComplexNumber>
        {
            new ComplexNumber(1.0, 2.0),
            new ComplexNumber(3.0, 4.0)
        };
        var sum = new ComplexNumber(0, 0);
        foreach (var c in buffer)
        {
            sum = sum.Add(c);
        }
        Console.WriteLine($"Sum: {sum.Real} + {sum.Imaginary}i");
    }
}
Sum: 4 + 6i

このように、構造体を使った内部バッファは、数値計算の高速化とメモリ効率の向上に寄与します。

List<T>の動的なサイズ変更機能も活用でき、柔軟な設計が可能です。

C#バージョン別の強化ポイント

C# 7.2 の readonly struct と in引数

C# 7.2で導入されたreadonly structは、構造体の不変性を保証する機能です。

readonly structにすると、その構造体のフィールドはすべて読み取り専用となり、インスタンスの状態を変更できなくなります。

これにより、コピー時の副作用を防ぎ、スレッドセーフ性やパフォーマンスの向上が期待できます。

public readonly struct Point
{
    public double X { get; }
    public double Y { get; }
    public Point(double x, double y)
    {
        X = x;
        Y = y;
    }
}

また、同バージョンで導入されたin引数は、構造体を参照渡ししつつ読み取り専用にする機能です。

これにより、大きな構造体をコピーせずにメソッドに渡せるため、パフォーマンスが向上します。

public void PrintPoint(in Point p)
{
    Console.WriteLine($"X: {p.X}, Y: {p.Y}");
}

in引数は読み取り専用なので、メソッド内での変更はできません。

readonly structと組み合わせることで、安全かつ効率的な値型の扱いが可能になります。

C# 8.0 の Nullable参照型との相互運用

C# 8.0で導入されたNullable参照型(Nullable Reference Types)は、参照型の変数がnullを許容するかどうかを明示的に示す機能です。

これにより、null参照例外の発生をコンパイル時に検出しやすくなります。

構造体は値型であり、nullを許容しませんが、Nullable参照型と組み合わせて使う場合、例えば構造体のフィールドに参照型を持つ場合や、構造体を含むクラスの設計で相互運用が重要になります。

public struct Person
{
    public string? Name;  // Nullable参照型
    public int Age;
}

このように、構造体内でNullable参照型を使うことで、nullの可能性を明示しつつ安全に扱えます。

C# 8.0以降は、構造体とNullable参照型の相互運用を意識した設計が求められます。

C# 9.0 の record struct

C# 9.0で追加されたrecord structは、イミュータブルな値型を簡単に定義できる新しい構造体の形態です。

record structは自動的にEqualsGetHashCodeToStringなどのメソッドを生成し、値の比較やデバッグが容易になります。

public record struct Point(double X, double Y);

この宣言だけで、Pointはイミュータブルな構造体となり、以下のように使えます。

var p1 = new Point(1, 2);
var p2 = new Point(1, 2);
Console.WriteLine(p1 == p2);  // True
Console.WriteLine(p1);        // Point { X = 1, Y = 2 }

record structはイミュータブル設計を促進し、値の等価性を簡単に扱えるため、構造体の設計がより安全かつ便利になります。

.NET 6+ における JIT 最適化

.NET 6以降のJIT(Just-In-Time)コンパイラは、構造体の扱いに関して多くの最適化を行っています。

特に、in引数の最適化や、構造体のコピー削減、SIMD命令の活用などが強化され、パフォーマンスが大幅に向上しています。

  • in引数の最適化

JITはin引数を効率的に扱い、不要なコピーを避けるため、構造体の大きさに応じて最適な渡し方を選択します。

  • 構造体のコピー削減

メソッド呼び出し時や戻り値での構造体のコピーを最小限に抑えるための最適化が進んでいます。

  • SIMD命令の活用

System.Numerics.Vector<T>などのSIMD対応型を使うと、JITがベクトル化を行い、並列処理による高速化が可能です。

これらの最適化により、構造体を使ったList<T>や配列の処理がより高速かつ効率的になっています。

最新の.NET環境を活用することで、構造体のパフォーマンスを最大限に引き出せます。

テストとプロファイリング

BenchmarkDotNetでの計測手順

パフォーマンスの正確な測定には、BenchmarkDotNetという強力なベンチマークライブラリがよく使われます。

構造体とList<T>の性能比較や最適化効果の検証に最適です。

セットアップとランタイム設定

  1. プロジェクトにBenchmarkDotNetを追加

NuGetパッケージマネージャーからBenchmarkDotNetをインストールします。

Install-Package BenchmarkDotNet
  1. ベンチマーククラスの作成

測定したいメソッドを[Benchmark]属性でマークし、クラスに[MemoryDiagnoser]属性を付けてメモリ使用量も計測できるようにします。

using BenchmarkDotNet.Attributes;
using BenchmarkDotNet.Running;
using System.Collections.Generic;
[MemoryDiagnoser]
public class ListBenchmark
{
    private List<PointStruct> structList;
    private List<PointClass> classList;
    [GlobalSetup]
    public void Setup()
    {
        structList = new List<PointStruct>();
        classList = new List<PointClass>();
        for (int i = 0; i < 10000; i++)
        {
            structList.Add(new PointStruct(i, i));
            classList.Add(new PointClass(i, i));
        }
    }
    [Benchmark]
    public int SumStructList()
    {
        int sum = 0;
        foreach (var p in structList)
        {
            sum += p.X + p.Y;
        }
        return sum;
    }
    [Benchmark]
    public int SumClassList()
    {
        int sum = 0;
        foreach (var p in classList)
        {
            sum += p.X + p.Y;
        }
        return sum;
    }
}
  1. ベンチマークの実行

Mainメソッドでベンチマークを起動します。

class Program
{
    static void Main()
    {
        var summary = BenchmarkRunner.Run<ListBenchmark>();
    }
}
  1. ランタイム設定

BenchmarkDotNetはデフォルトで複数回のウォームアップと計測を行い、信頼性の高い結果を出します。

必要に応じてJob属性でランタイムやJITの設定をカスタマイズ可能です。

結果の読み取りポイント

  • 実行時間(Mean, Median)

各ベンチマークの平均実行時間や中央値を確認し、どちらが高速か判断します。

  • メモリ使用量(Allocated)

メモリ割り当て量をチェックし、構造体とクラスの違いによるGC負荷の差を把握します。

  • GCコレクション回数

Gen0, Gen1, Gen2のGC発生回数を確認し、メモリ管理の効率を評価します。

  • エラーバーや標準偏差

測定のばらつきを示す指標で、結果の信頼性を判断します。

これらの情報を総合的に分析し、最適なデータ構造や実装方法を選択します。

dotMemoryによるリーク確認

dotMemoryはJetBrainsが提供するメモリプロファイラで、メモリリークや不要なオブジェクトの保持を検出できます。

構造体とList<T>の組み合わせでメモリ使用が適切かどうかを確認するのに役立ちます。

  • プロファイリングの開始

Visual Studioの拡張機能や単独アプリとしてdotMemoryを起動し、対象アプリケーションを実行します。

  • スナップショット取得

実行中や特定の操作後にメモリスナップショットを取得し、ヒープの状態を記録します。

  • オブジェクトの分析

ヒープ内のオブジェクト数やサイズを確認し、不要なオブジェクトが残っていないか、構造体のボックス化が発生していないかをチェックします。

  • リークの特定

メモリ使用量が増加し続ける場合、どのオブジェクトが解放されていないかを特定し、コードの問題箇所を見つけます。

  • GC圧力の評価

クラスのインスタンスが多すぎる場合やボックス化が多発している場合は、GC負荷が高くなっている可能性があります。

Visual Studio Diagnostic Tools活用

Visual Studioには組み込みの診断ツールがあり、パフォーマンスやメモリの問題を簡単に調査できます。

  • パフォーマンスプロファイラ

CPU使用率やメソッドの呼び出し時間を計測し、ボトルネックを特定します。

List<T>の操作や構造体のコピーが多い箇所を見つけやすいです。

  • メモリ使用状況の監視

実行中のメモリ使用量をリアルタイムで確認し、GCの発生タイミングやメモリリークの兆候を把握します。

  • ヒープスナップショット

メモリスナップショットを取得し、オブジェクトの種類や数、サイズを分析できます。

構造体のボックス化や不要な参照を検出可能です。

  • 診断ツールの使い方

Visual Studioの「デバッグ」メニューから「パフォーマンスプロファイラ」や「診断ツール」を起動し、対象のアプリケーションを実行します。

操作を行いながらデータを収集し、詳細なレポートを確認します。

これらのツールを活用することで、構造体とList<T>のパフォーマンスやメモリ使用の問題を効率的に発見し、改善につなげられます。

デバッグとトラブルシューティング

典型的なコンパイルエラー

構造体をList<T>などで扱う際に、よく遭遇するコンパイルエラーがあります。

ここでは代表的なエラーとその対応策を解説します。

Cannot modify members of ‘struct’ because it is not a variable

このエラーは、構造体のメンバーを変更しようとしたときに、対象が変数ではなく値のコピーである場合に発生します。

例えば、List<T>の要素をforeachで取り出して直接フィールドを変更しようとすると起こります。

List<Point> points = new List<Point> { new Point(1, 2) };
foreach (var p in points)
{
    p.X = 10;  // エラー発生
}

foreachのループ変数pは読み取り専用のコピーであり、元のリストの要素ではありません。

そのため、メンバーの変更は許可されません。

対応策

  • forループを使い、インデックスでアクセスして再代入します
for (int i = 0; i < points.Count; i++)
{
    Point p = points[i];
    p.X = 10;
    points[i] = p;  // 変更をリストに反映
}
  • C# 7.3以降であれば、refローカル変数を使って直接参照を取得し、変更します
for (int i = 0; i < points.Count; i++)
{
    ref Point p = ref points[i];
    p.X = 10;  // 直接変更可能
}

CS1612 対応策

エラーCS1612は「Cannot modify the return value of ‘…’ because it is not a variable」というメッセージで、プロパティやインデクサの戻り値が値型であり、直接変更できない場合に発生します。

例えば、構造体を返すプロパティのフィールドを直接変更しようとすると起こります。

public struct Point
{
    public int X;
    public int Y;
}
public class Container
{
    public Point Position { get; set; }
}
var container = new Container();
container.Position.X = 5;  // CS1612 エラー

これはPositionプロパティが値を返すため、container.Positionはコピーであり、そのコピーのXを変更しても元のPositionは変わりません。

対応策

  • プロパティの値を一旦変数に代入し、変更後に再代入します
var pos = container.Position;
pos.X = 5;
container.Position = pos;
  • プロパティの戻り値をrefにして参照を返す(C# 7.0以降)
public ref Point PositionRef => ref _position;
private Point _position;

これにより、container.PositionRef.X = 5;のように直接変更可能になります。

実行時例外の分析

構造体をList<T>で扱う際の実行時例外は、主に以下のような原因で発生します。

  • インデックス範囲外アクセス

List<T>のインデックスが範囲外の場合、ArgumentOutOfRangeExceptionが発生します。

ループやアクセス時は必ずCountを確認してください。

  • ボックス化によるInvalidCastException

構造体をインターフェース型やobjectにキャストした際に、予期しない型変換エラーが起こることがあります。

特にジェネリック型の制約やキャスト処理を見直しましょう。

  • スレッド競合による例外

複数スレッドから同時にList<T>を操作すると、InvalidOperationExceptionやデータ破損が起こることがあります。

スレッドセーフな設計を心がけてください。

例外発生時はスタックトレースを確認し、どのコード行で問題が起きているか特定することが重要です。

ILソースの確認方法

C#のコンパイル後の中間言語(IL)を確認すると、構造体のコピーやボックス化の発生箇所を詳細に把握できます。

ILを読むことで、パフォーマンス問題の原因解析や最適化のヒントが得られます。

ILコードの確認手順

  1. IL Disassembler(ILDASM)を使う

Visual Studio付属のILDASMツールでアセンブリを開き、メソッドのILコードを閲覧できます。

  1. dotPeekやILSpyなどのデコンパイラを使う

これらのツールはILコードだけでなく、C#の逆コンパイル結果も表示し、ILとソースコードの対応がわかりやすいです。

  1. Visual Studioの「ILコードの表示」機能

デバッグ中にILコードを表示することも可能です。

ILで注目すべきポイント

  • ldobjstobj命令は構造体のコピーを示します。頻繁に使われている場合はコピーコストが高い可能性があります
  • box命令はボックス化を示し、値型が参照型に変換されていることを意味します。パフォーマンス低下の原因となるため注意が必要です
  • refref readonlyの扱いもILで確認できます。参照渡しが正しく行われているかをチェックしましょう

ILコードを理解することで、C#の高レベルコードがどのように実行されているかを深く把握でき、デバッグや最適化に役立ちます。

応用パターン

ビットフィールドのコンパクト格納

構造体内で複数のフラグや小さな値を効率的に格納したい場合、ビットフィールドを活用するとメモリを節約できます。

C#にはCやC++のようなビットフィールド構文はありませんが、ビット演算を使って複数の値を1つの整数型に詰め込むテクニックが一般的です。

public struct StatusFlags
{
    private byte flags;
    private const byte FlagA = 1 << 0;  // 0000_0001
    private const byte FlagB = 1 << 1;  // 0000_0010
    private const byte FlagC = 1 << 2;  // 0000_0100
    public bool IsFlagA
    {
        get => (flags & FlagA) != 0;
        set
        {
            if (value)
                flags |= FlagA;
            else
                flags &= (byte)~FlagA;
        }
    }
    public bool IsFlagB
    {
        get => (flags & FlagB) != 0;
        set
        {
            if (value)
                flags |= FlagB;
            else
                flags &= (byte)~FlagB;
        }
    }
    public bool IsFlagC
    {
        get => (flags & FlagC) != 0;
        set
        {
            if (value)
                flags |= FlagC;
            else
                flags &= (byte)~FlagC;
        }
    }
}

この例では、1バイトのflagsフィールドに3つのフラグをビット単位で格納しています。

これにより、複数の真偽値をコンパクトに管理でき、構造体のサイズを小さく保てます。

ビットフィールドは大量のフラグを持つ場合や、メモリ制約が厳しい環境で特に有効です。

ただし、ビット演算の可読性が低くなるため、適切なコメントや命名で保守性を確保しましょう。

SIMD Vector 型を用いた高速演算

SIMD(Single Instruction Multiple Data)命令を活用すると、複数のデータを同時に処理でき、数値計算や画像処理などで大幅な高速化が可能です。

C#ではSystem.Numerics.Vector<T>System.Runtime.Intrinsics名前空間を使ってSIMDを利用できます。

構造体の配列やList<T>の内部データをSIMDで処理する例を示します。

using System;
using System.Numerics;

public struct Vector4D
{
    public float X, Y, Z, W;
    public Vector4D(float x, float y, float z, float w)
    {
        X = x; Y = y; Z = z; W = w;
    }
}

class Program
{
    static void Main()
    {
        Vector4D[] data = new Vector4D[4]
        {
            new Vector4D(1, 2, 3, 4),
            new Vector4D(5, 6, 7, 8),
            new Vector4D(9, 10, 11, 12),
            new Vector4D(13, 14, 15, 16)
        };

        Vector<float> sum = Vector<float>.Zero;
        int vectorCount = Vector<float>.Count;
        for (int i = 0; i < data.Length; i += vectorCount)
        {
            float[] xValues = new float[vectorCount];
            for (int j = 0; j < vectorCount; j++)
            {
                int index = i + j;
                if (index < data.Length)
                {
                    xValues[j] = data[index].X;
                }
                else
                {
                    xValues[j] = 0f;
                }
            }
            var vec = new Vector<float>(xValues);
            sum += vec;
        }

        float total = 0f;
        for (int i = 0; i < vectorCount; i++)
        {
            total += sum[i];
        }

        Console.WriteLine($"X成分の合計: {total}");
    }
}
X成分の合計: 28

この例では、Vector<float>を使って複数のX成分を同時に加算しています。

SIMD命令により、ループの反復回数が減り、CPUのベクトル演算ユニットを活用して高速化できます。

SIMDを使う際は、データが連続したメモリに配置されていることや、データ数がSIMD幅の倍数であることが望ましいです。

Span<T>Memory<T>と組み合わせるとさらに効率的です。

参照返し(ref return)での効率的アクセス

C# 7.0以降、ref returnを使うことで、構造体の要素をコピーせずに参照として返し、直接操作できます。

これにより、List<T>や配列の要素に対する効率的なアクセスと更新が可能になります。

public struct Point
{
    public int X;
    public int Y;
}
class PointList
{
    private Point[] points = new Point[10];
    public ref Point GetPointRef(int index)
    {
        return ref points[index];
    }
}
class Program
{
    static void Main()
    {
        var list = new PointList();
        ref Point p = ref list.GetPointRef(0);
        p.X = 100;
        p.Y = 200;
        ref Point p2 = ref list.GetPointRef(0);
        Console.WriteLine($"X: {p2.X}, Y: {p2.Y}");
    }
}
X: 100, Y: 200

この例では、GetPointRefメソッドが配列の要素への参照を返し、呼び出し元で直接フィールドを変更しています。

コピーが発生しないため、大きな構造体の更新でも効率的です。

ref returnは、構造体のコピーコストを抑えたい場合や、頻繁に要素を更新するシナリオで特に有効です。

ただし、参照の有効範囲や安全性に注意し、無効な参照を使わないように設計してください。

値型なのにヒープに配置される条件は?

構造体は基本的に値型であり、スタック上に割り当てられることが多いですが、特定の条件下ではヒープに配置されることがあります。

主なケースは以下の通りです。

  • ボックス化(Boxing)が発生した場合

構造体をobject型やインターフェース型にキャストすると、値型が参照型に変換され、ヒープ上にボックス化されます。

これにより、構造体のコピーがヒープに作成されます。

  • クラスのフィールドとして格納される場合

構造体がクラスのフィールドとして使われると、その構造体はクラスのインスタンスと同じヒープ領域に配置されます。

つまり、構造体自体はヒープ上に存在します。

  • クロージャやラムダ式のキャプチャ

構造体がラムダ式や匿名メソッドでキャプチャされると、ヒープ上のオブジェクトにコピーされることがあります。

  • asyncメソッドやイテレータの状態マシン内に含まれる場合

状態マシンのフィールドとして構造体が含まれると、ヒープ上に配置されることがあります。

これらの状況では、値型であってもヒープ割り当てが発生し、パフォーマンスに影響を与える可能性があるため注意が必要です。

List<T>よりStructLayout配列が速い場面は?

List<T>は内部的に配列を使い動的にサイズを拡張できる便利なコレクションですが、固定長の配列に比べて以下のような場面でパフォーマンスが劣ることがあります。

  • 頻繁なリサイズが発生する場合

List<T>は容量を超えると内部配列を新たに確保し、全要素をコピーします。

大量の追加操作でリサイズが頻発すると、コピーコストが高くなりパフォーマンスが低下します。

  • 固定サイズで要素数が変わらない場合

要素数が決まっていて変更しない用途では、固定長配列の方がメモリ効率が良く、アクセスも高速です。

  • 低レベルなメモリ制御が必要な場合

StructLayout属性を使ってメモリレイアウトを制御した配列は、アンマネージドコードとの相互運用やSIMD処理で有利です。

  • GC負荷を極力抑えたい場合

固定長配列は再割り当てが発生しないため、GCの発生を抑えられます。

このようなケースでは、StructLayoutを指定した配列やアンマネージドメモリを使う方が高速かつ効率的です。

ただし、柔軟性や使いやすさはList<T>の方が優れているため、用途に応じて使い分けることが重要です。

foreachでのコピーを避けるには?

foreachループで構造体の要素を列挙すると、要素がコピーされるため、特に大きな構造体ではパフォーマンスに影響が出ることがあります。

コピーを避ける方法は以下の通りです。

  • forループを使う

インデックスで直接アクセスし、必要に応じてrefを使って参照を取得することでコピーを防げます。

for (int i = 0; i < list.Count; i++)
{
    ref var item = ref list[i];
    // itemを直接操作
}
  • ref foreach(C# 7.3以降)を使う

C# 7.3以降では、refを使ったforeachがサポートされており、要素の参照を取得してコピーを回避できます。

ただし、List<T>の標準Enumeratorは値のコピーを返すため、CollectionsMarshal.AsSpanなどを使ってSpan<T>を取得し、ref foreachを使う方法が一般的です。

using System.Runtime.InteropServices;
Span<Point> span = CollectionsMarshal.AsSpan(list);
foreach (ref var item in span)
{
    // itemを直接操作
}
  • イミュータブル設計を検討する

コピーが発生しても問題ないように構造体をイミュータブルに設計し、副作用を防ぐ方法もあります。

これらの方法を使うことで、foreachによる不必要なコピーを減らし、パフォーマンスを向上させられます。

まとめ

この記事では、C#における構造体とList<T>の組み合わせによる効率的なデータ管理方法を解説しました。

構造体の値型特性やメモリ配置、List<T>の動的配列としての特徴を理解し、パフォーマンス向上やメモリ効率化のポイントを押さえられます。

さらに、注意すべきコピーコストやボックス化、スレッド安全性の課題、最適化テクニックや実践的なユースケースも紹介しました。

これらを踏まえ、適切な設計と運用で高速かつ安定したアプリケーション開発が可能になります。

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