C++には、CRTPと呼ばれるテンプレートメタプログラミング技法があり、この技法を使うことで、静的ポリモーフィズムを実現することができます。
本記事では、CRTPの基礎から応用までをわかりやすく解説していきます。
CRTPとは何か
CRTPとは、C++でよく使われるテンプレート手法の一種であり、Curiously Recurring Template Pattern(奇妙な再帰的テンプレートパターン)の略称です。このパターンは、静的ポリモーフィズムを実現するために使用されます。
具体的には、クラスが自身を継承したクラスをテンプレート引数として受け取り、そのクラスのメソッドを呼び出すことができるようになります。
これによって、派生クラスが親クラスのメソッドをオーバーライドする必要がなくなり、コードの重複を避けることができます。
以下では、CRTPの基本的な使い方について説明します。
CRTPのメリットとデメリット
CRTPのメリットとデメリットについて解説します。
メリット
静的ポリモーフィズムの実現
CRTPを使用することで、静的ポリモーフィズムを実現することができます。
静的ポリモーフィズムは、コンパイル時に型情報を解決するため、実行時のオーバーヘッドが発生しません。そのため、高速な処理が必要な場合に有効です。
派生クラスのインタフェースの制限
CRTPを使用することで、派生クラスのインタフェースを制限することができます。
具体的には、派生クラスが基底クラスで定義されたメソッドや変数にアクセスできるようになりますが、逆に基底クラスから派生クラスのメソッドや変数にアクセスすることはできません。
これにより、プログラマーが意図しない操作を行うことを防ぐことができます。
デメリット
コードの複雑化
CRTPはテンプレートの仕組みを理解した上での応用スキルであるため、理解せずに使うとコードが無意味に複雑化してしまう可能性があります。
特に多重継承やテンプレート引数の多用などは、コードの可読性を低下させる原因となります。
ビルド時間の増加
CRTPを使用した場合、ビルド時間が増加する可能性があります。特にテンプレート引数の多用や多重継承などは、ビルド時間を大幅に増加させる原因となります。
CRTPの応用例
CRTPは、テンプレートメタプログラミングやポリモーフィズムの代替手段として広く使われています。以下では、それぞれの応用例について詳しく解説します。
テンプレートメタプログラミングにおけるCRTPの活用
テンプレートメタプログラミングでは、コンパイル時に処理を行うことで高速な実行を実現することができます。CRTPは、このようなテンプレートメタプログラミングにおいても有効に活用されます。
例えば、以下のようなクラスがあったとします。
template <typename T>
class Base {
public:
void foo() {
static_cast<T*>(this)->foo_impl();
}
};
このクラスは、派生クラスで foo_impl()
を定義することで foo()
を呼び出すことができます。これにより、静的ポリモーフィズムを実現することができます。
class Derived : public Base<Derived> {
public:
void foo_impl() {
// 何らかの処理
}
};
このようにCRTPを使用することで、静的ポリモーフィズムを実現し、高速な処理を行うことができます。
ポリモーフィズムの代替手段としてのCRTP
通常のC++では、オブジェクト指向言語らしくポリモーフィズムを利用して柔軟な設計を行うことが多いです。
しかし、ポリモーフィズムは仮想関数テーブルや動的キャスト等のオーバーヘッドが発生し、パフォーマンス上問題がある場合もあります。
そこでCRTPは、静的ポリモーフィズムを利用した代替手段として有効です。以下はその一例です。
template <typename T>
class Shape {
public:
double area() const {
return static_cast<const T*>(this)->area_impl();
}
};
class Circle : public Shape<Circle> {
public:
double area_impl() const {
// calculate circle area
}
};
class Rectangle : public Shape<Rectangle> {
public:
double area_impl() const {
// calculate rectangle area
}
};
このようにCRTPを使用することで、静的ポリモーフィズムを実現し、オブジェクト指向言語らしい柔軟な設計を行うことが可能です。また、動的キャスト等のオーバーヘッドも発生しないため高速な処理が期待されます。